政府、原油調達の3法案を閣議決定 ホルムズ海峡を避ける輸送に交付金、再保険が途絶えた場合は政府が補填
原油等調達多角化法案・原油等輸送保険法案・JOGMEC法改正案を臨時国会へ
政府は2026年10月13日、原油の調達先と輸送経路の多角化を進める3つの法案を閣議決定しました。ホルムズ海峡を避けて原油を運ぶ事業者に追加費用を交付金で支援し、その原資は石油製品の製造・輸入業者の納付金で賄います。外国の再保険が止まった際に政府が保険金の一部を肩代わりする制度や、JOGMECの出資対象の拡大も含みます。企業に関係する点を整理します。
まず、これだけ押さえたい
- 政府は2026年10月13日、原油調達の多角化に向けた3法案を閣議決定し、開会中の第222回国会に提出予定。
- 多角化法案は、ホルムズ海峡(政令で指定を想定)を避ける輸送の追加費用をJOGMEC経由の交付金で支援する。
- 交付金の原資は、ガソリン・軽油・重油などの国内販売量に応じて原油精製業者・輸入業者が納める納付金。
- 外国政府等が再保険を禁じた場合に、国内損保の支払予定額を超える部分を政府が補う保険制度も新設する。
- 納付金単価や指定水路は政令等で決まるため、燃料コストへの影響は今後の制度設計次第。
経営への示唆編集部の分析
今回の法案は、平時から調達経路を分散させ、その費用を石油製品の利用者全体で薄く負担する仕組みへの転換を意味します。燃料や石化原料を多く使う企業は、納付金の転嫁によるコスト増の可能性と、供給途絶リスクの低下という両面を見込んでおく必要があります。調達先の切り替えに伴う品質・納期の変化や、海上保険の手配体制も、取引先と事前に確認しておくことが望まれます。
この記事の目次

画像: AI生成のイメージ画像(Codexで作成)。実際の場面ではありません
3法案を閣議決定
経済産業省は2026年10月13日、原油などの調達の安定性を高めるための3つの法案が閣議決定されたと発表しました。現在開会中の第222回国会(臨時国会)に提出される予定です(経済産業省(外部サイトが新しいタブで開きます))。
経産省は背景として、中東情勢の変化で「長期間にわたって原油タンカーが事実上ホルムズ海峡を通ることができない状況が生じた」ことを挙げ、特定の輸送経路に頼るリスクが表面化したと説明しています。ロイター通信によると、日本の2025年の原油輸入の94%は中東産で、そのうち93%がホルムズ海峡を経由していました(The Star/ロイター(外部サイトが新しいタブで開きます))。
1. 原油等調達多角化法案
正式名称は「原油等の安定的な輸送の確保のための指定水路の利用の合理化に関する法律案」です。法案の概要資料によると、仕組みは次のとおりです(法律案概要(外部サイトが新しいタブで開きます))。
- 指定水路:代わりの経路での輸送が難しい狭い水路を政令で指定します。ホルムズ海峡の指定が想定されています。
- 計画の認定と交付金:石油元売り、石油化学メーカー、商社などが、指定水路への依存を下げる計画を作り、政府が認定します。認定を受けた事業者には、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構。資源の安定供給を担う国の機関)が交付金を出します。想定例は、海峡の外側の積出港までパイプラインを使う際の使用料や追加の船賃、遠方の複数地域から分散調達する際の船賃などです。
- 納付金:交付金の原資は、ガソリン・ナフサ、灯油(ジェット燃料を含む)、軽油、重油の国内販売・使用量に応じて、原油精製業者や石油製品の輸入業者がJOGMECに納める納付金です。単価の上限は、海峡を通る航路とそれ以外の航路の輸送費の差を基礎に政令で定めます。
共同通信は、米国からの輸送は中東からに比べて2倍以上の時間がかかり、輸送費がかさむと伝えています(熊本日日新聞/共同通信(外部サイトが新しいタブで開きます))。
2. 原油等輸送保険法案
船の貨物保険・船舶保険は、国内の損害保険会社が引き受けたうえで、巨額のリスク分を外国の保険会社の再保険(保険会社がかける保険)に出すのが一般的です。法案は、外国政府などが日本向けの原油等について再保険の引き受けを禁じた場合に備え、国内損保の支払予定額を超える部分を政府が交付金で補う契約制度を設けます。対象は原油、石油製品、液化天然ガス(LNG)の海上輸送です(法律案概要(外部サイトが新しいタブで開きます))。
3. JOGMEC法改正案
JOGMECの業務に、原油等の輸送事業やバイオ燃料製造事業、金属リサイクルの製錬事業への出資・債務保証、CCS(二酸化炭素の回収・貯留)への助成などを加えます(経済産業省(外部サイトが新しいタブで開きます))。
企業への意味
- 燃料コスト:納付金は石油製品の販売量に応じてかかるため、最終的に燃料価格にどの程度転嫁されるかは単価の決め方次第です。単価は政府が審議会の意見を聴いて定めます。
- 調達・物流:石油化学メーカーや商社は交付金の対象になり得ます。原料をナフサに頼る化学・素材企業は、調達先の変更が品質や納期に及ぼす影響を取引先と確認しておく必要があります。
- 保険:海上保険を手配する荷主や船主にとって、再保険が止まる事態でも保険を確保する仕組みができる点は、輸送の継続性を考えるうえで重要です。
法案の審議の行方と、政令で決まる指定水路・納付金単価の内容が今後の焦点です。
経営会議で確認したい3つのこと
- 当社の燃料・原料コストのうち、ガソリン・軽油・重油・ナフサ由来の部分はどれだけあり、納付金が転嫁された場合の影響を試算できているか。
- 原料の調達先が中東以外に切り替わった場合、品質規格や納期への影響を取引先と確認しているか。
- 海上輸送の保険が手配できなくなる事態を想定した輸送継続の計画はあるか。
用語の補足(11語)
- 閣議決定
- 内閣の全閣僚が参加する閣議で、政府としての方針や法案の国会提出などを決めること。
- ホルムズ海峡
- ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ狭い海峡。中東産原油の主要な輸送路で、日本向けタンカーの多くが通過する。
- JOGMEC
- 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構。石油・天然ガスや金属鉱物資源の安定供給を支える国の機関。
- 再保険
- 保険会社が引き受けたリスクの一部を、さらに別の保険会社に引き受けてもらう保険。巨額の損失に備えるために使われる。
- 政令
- 法律の規定を実施するために内閣が定める命令。具体的な対象や金額などの細部を定めることが多い。
- 石油元売り
- 原油を輸入・精製し、ガソリンや灯油などの石油製品を系列の販売店などに卸す石油会社。製油所を運営する。
- ナフサ
- 原油を精製して得られる液体の一種で、粗製ガソリンとも呼ばれる。プラスチックなど石油化学製品の主な原料となる。
- 臨時国会
- 毎年1月に召集される通常国会とは別に、必要に応じて召集される国会。内閣の判断などで開かれ、法案の審議を行う。
- 債務保証
- 企業などの借り手が返済できなくなった場合に、保証する側が代わりに返済することを約束すること。資金調達を助ける手段となる。
- CCS
- 二酸化炭素の回収・貯留。工場や発電所から出る二酸化炭素を分離・回収し、地中深くに閉じ込める技術。
- LNG
- 液化天然ガス。天然ガスを冷却して液体にしたもので、体積が小さくなるため専用船で海上輸送される。
根拠資料・出典
一次資料
- 一次資料「原油等の安定的な輸送の確保のための指定水路の利用の合理化に関する法律案」、「特定貨物保険契約及び特定船舶保険契約の履行の確保に関する特別措置法案」及び「独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構法の一部を改正する法律案」が閣議決定されました
- 一次資料原油等の安定的な輸送の確保のための指定水路の利用の合理化に関する法律案の概要【原油等調達多角化法案】
- 一次資料特定貨物保険契約及び特定船舶保険契約の履行の確保に関する特別措置法案の概要【原油等輸送保険法案】
二次報道・参考
訂正履歴
訂正はありません。最終更新: 2026年10月22日 08:00
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