分析地政学と国際政治

イスラエル総選挙、どちらが勝っても中東の構図は変わるのか 最終調査は両陣営とも過半数に届かず、焦点は連立と対外関係

10月27日投票。政権交代の有無より、選挙後の連立と制裁・米国との関係が日本企業に効く

イスラエルで10月27日に総選挙が行われます。10月23日公表の最終世論調査では、ネタニヤフ首相の与党陣営も、アイゼンコット氏らの野党陣営も過半数の61議席に届いていません。両氏はパレスチナ国家への反対など基本的な安全保障政策で重なる部分が多く、焦点は連立の組み方と、制裁や米国との関係にあります。投票前に確認できた事実から、日本企業が見ておくべき点を分析します。

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BSAC5編集部
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まず、これだけ押さえたい

  • 10月23日公表の主要テレビ局の最終調査では、ネタニヤフ首相の陣営もアイゼンコット氏らの野党陣営も、過半数の61議席に届いていません。
  • 両氏はパレスチナ独立国家への反対やハマスの武装解除の要求で重なり、違いは入植地政策と連立相手にあると報じられています。
  • 制裁への備えをめぐる議論が選挙戦で表面化しており、日本企業は勝敗より、選挙後の連立合意と制裁・海上輸送への影響を見ておく必要があります。

押さえておきたい数字

経営への示唆編集部の分析

今回の選挙は、勝敗だけでは中東の先行きを判断できない選挙です。両陣営とも過半数に届かない調査が多く、どちらが政権を担っても安全保障上の基本的な課題は残ります。一方で、入植地をめぐる英仏加などの措置や、制裁への備えをめぐる議論は、選挙後のイスラエルと各国との経済関係を左右し得ます。中東に取引や輸送ルートを持つ企業は、エネルギー・海上輸送、米国の関与、制裁の3つの経路で自社への影響を整理し、連立合意の内容を見てから計画を見直すのが現実的です。

この記事の目次
夕暮れの地中海沿岸を背景に、机の上に置かれた抽象的な投票箱。選挙と中東情勢の行方を象徴する静かな場面

画像: AI生成のイメージ画像(Codexで作成)。実際の場面ではありません

何が起きたか

投票日を前に、どの陣営も単独では過半数の61議席に届かない、というのが最終世論調査の共通点です。 結果を左右するのは得票そのものより、選挙後の連立交渉になる可能性があります。

イスラエルの国会(クネセト)は一院制の120議席で、任期は4年です。全国を1つの選挙区とする比例代表制で、有権者は約730万人。得票率3.25%に届かない名簿は議席を得られません。今回は第25期クネセトが任期満了を迎えたことによる選挙で、投票日は2026年10月27日です(欧州議会調査局(EPRS)(外部サイトが新しいタブで開きます))。

各テレビ局が10月23日(金)に公表した最終調査の議席予測は次のとおりです。イスラエルでは土曜から投票日夜の出口調査までの間、世論調査の公表ができません(Times of Israel(外部サイトが新しいタブで開きます))。

放送局(調査会社) ネタニヤフ首相を支える与党陣営 アイゼンコット氏らの野党陣営 アラブ系政党
チャンネル12(Midgam) 50 56 14
チャンネル13(Madad) 50 54 16
公共放送Kan(Kantar) 50 52 14
i24NEWS(Direct Polls、10月22日調査) 59 47 14

出典: チャンネル12・13・Kanは Times of Israel(外部サイトが新しいタブで開きます)、i24NEWSは i24NEWS(外部サイトが新しいタブで開きます)。いずれも予測で、選挙結果ではありません。

主要3局の調査では、元軍参謀総長ガディ・アイゼンコット氏の政党「ヤシャル」が第1党、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の「リクード」が第2党です。一方、i24NEWSの調査ではリクードが上回っており、調査主体による差は大きくなっています。

国内の争点も重なっています。イスラエル民主研究所(IDI)が10月5〜8日に実施した調査(同研究所は「2026年9月のイスラエル世論指数」と表記)では、次の政府が取り組むべき課題として、ユダヤ系回答者の支持が最も高かったのは、超正統派の若者にも兵役を課す「平等な徴兵法」と、2023年10月7日の事件を調べる「国家調査委員会」の設置でした(IDI(外部サイトが新しいタブで開きます))。Times of Israelによれば、支持率はそれぞれ72%と71%です(Times of Israel(外部サイトが新しいタブで開きます))。

なぜ起きたか

二人の候補は、パレスチナ国家やガザをめぐる基本的な立場では重なる部分が多く、違いは入植地政策と連立の組み方にあります。 そのため、政権が代わっても安全保障政策が一度に大きく変わるとは限らない、と編集部は見ています。

ロイターの10月22日の比較記事によれば、両氏はいずれもパレスチナ独立国家の樹立に反対し、ヨルダン川から地中海までの全域でイスラエルが最終的な安全保障上の管理を保つべきだとしています。ガザについても、ハマスが武装解除するまで部隊を撤退させず、そのためには戦闘の再開も辞さないという立場で共通しています(ロイター/Internazionale転載(外部サイトが新しいタブで開きます))。

論点 ネタニヤフ首相(リクード) アイゼンコット氏(ヤシャル)
パレスチナ独立国家 反対 反対
ガザからの撤退 ハマスの武装解除が条件 ハマスの武装解除が条件。就任後18か月以内にハマスの統治を置き換えると表明
ヨルダン川西岸の入植 政権下で入植地が急速に拡大 入植自体は認めるが国内法に沿うべきとし、無許可の入植拠点の撤去、入植者による暴力の防止、E1地区の建設計画への反対を表明
想定される連立相手 右派政党と超正統派政党 右派の野党、中道左派の民主党など。支持層が超正統派の兵役免除に反対しており、超正統派政党との連携は難しいとみられる
アラブ系政党との連立 否定 否定

出典: ロイター(10月22日)(外部サイトが新しいタブで開きます)

国内の争点では、EPRSによると、野党は10月7日の事件について独立した国家調査委員会を求め、政府側は権限の狭い、政府が任命する調査委員会を選んでいます。超正統派の徴兵をめぐっては、2024年の最高裁判決が一律の兵役免除を認めず、2026年7月には宗教学習に関する基本法が成立しました(批判派は将来の免除につながると主張)。このほか、国防費、生活費、エネルギー価格、2025年の付加価値税の18%への引き上げ、首相の刑事裁判と2023年の司法制度改革も争点に挙げられています(EPRS(外部サイトが新しいタブで開きます))。

国際的な圧力も強まっています。英国・フランス・カナダの首脳は9月8日の共同声明で、入植地からの物品の輸入を禁止し、入植地とそれに協力・利益を得る者を対象にした措置を取ると表明しました(英国政府(外部サイトが新しいタブで開きます))。入植地については、多くの国が国際法違反とみなし、イスラエルはこれに異を唱えています(ロイター(外部サイトが新しいタブで開きます))。

何が変わるか

米国の姿勢と、制裁をめぐる議論の2点が、選挙後の政権の選択肢を左右します。 どちらも、誰が首相になっても向き合う必要がある条件です。

米国:大統領と副大統領で対応が分かれた

トランプ大統領は10月18日、自身のSNSでネタニヤフ首相への「完全な支持」を表明しました(アルジャジーラ(外部サイトが新しいタブで開きます))。エルサレム・ポストは、2人の関係者の話として、大統領に近い側近や支持者の一部が公の支持表明に懸念を示していたと報じています(エルサレム・ポスト(外部サイトが新しいタブで開きます))。一方、バンス副大統領は翌日のインタビューで「イスラエルの選挙には関わらない」と述べ、支持にも反対にも立たない考えを示しました(アルジャジーラ(外部サイトが新しいタブで開きます))。

編集部は、この違いを米政権の方針転換とまでは読みません。ただ、米国内に複数の考え方があることは、どの政権が成立しても、米国との協力の中身が交渉で決まる余地があることを示していると考えます。なお、アルジャジーラによれば、米国とイスラエルは2026年2月28日にイランとの戦争を始めており、両首脳はこの点で協力してきました(アルジャジーラ(外部サイトが新しいタブで開きます))。

経済:制裁への備えをめぐる議論が表に出た

ロイターによると、ネタニヤフ首相は10月23日(金)放送のテレビインタビューで、銀行を含む制裁の可能性に備えて「迂回の経済」が必要だと述べ、暗号資産やブロックチェーンも選択肢になると話しました。これに対しイスラエル銀行(中央銀行)は、暗号資産は制裁を回避する手段にはなり得ないとし、制裁を防ぎ主要な貿易相手との関係を守ることが政治指導者の責任だとする声明を出しました(ロイター/Express Tribune転載(外部サイトが新しいタブで開きます)、Ynet(外部サイトが新しいタブで開きます))。

10月25日には、元中央銀行総裁を含む100人超の経済学者が書簡で、こうした方針は失業の増加や海外からの投資の減少を招き、国の安全保障を賄う財政力も損なうと警告しました。アイゼンコット氏はこの構想を「狂気」と批判しています(ロイター/Express Tribune転載(外部サイトが新しいタブで開きます))。

編集部は、ここに今回の選挙のもう一つの論点があると考えます。安全保障を支える財政や産業の基盤は、国際的な金融・貿易とのつながりに支えられています。対外関係の扱いが経済の制約条件になりつつあることは、選挙結果にかかわらず残る課題です。

どう行動すべきか

日本企業にとって大切なのは、誰が勝つかを当てることではなく、選挙後の変化が自社に届く経路を事前に押さえておくことです。 以下は編集部が提案する整理の枠組みです。

影響の経路 何が起こり得るか(編集部の見立て) 確認しておきたいこと
1. エネルギー・海上輸送 イランとの緊張が高まれば、ホルムズ海峡や紅海を通る輸送、船の保険料、湾岸のエネルギー施設に影響が及び得る。逆に外交協議が進めば、供給リスクは下がり得る 調達・輸送ルートごとの依存度、代替ルートと追加費用、在庫日数
2. 米国の外交・軍事資源 米国の中東への関与が長引けば、インド太平洋への関与の配分が議論になり得る。ただし直ちに東アジアの抑止力が下がるとは限らない 米国の中東政策と対アジア政策の発表、日米の安全保障協議の動き
3. 制裁と取引の規制 入植地に関わる限定的な措置が、金融機関や広い取引を対象とするものへ広がれば、日本企業の取引にも影響し得る 取引先・最終顧客の所在、決済経路、輸出管理、契約上の制裁条項

原油価格は世界全体の需給に左右されるため、イスラエルの選挙結果だけで相場を判断することはできません。原油と海上輸送の見通しは、当サイトの原油・ホルムズ海峡の分析記事と、日本の「エネルギー自治」を扱った記事でも取り上げています。

当面の実務としては、次の3点が考えられます。

  • 制裁リストの確認を定例にする:英国は入植地に関わる個人・企業を対象にした制裁の仕組みを準備しています。イスラエルや周辺地域と取引がある場合、取引先の照合手順を点検します。
  • 決済と契約の経路を確かめる:送金に使う銀行、通貨、契約の準拠法や制裁条項を確認し、規制が広がった場合の代替手段を考えておきます。
  • 連立が決まるまで判断を急がない:投票直後の議席数より、連立合意に書かれる政策(入植地、徴兵、対イラン方針)を見てから、中東事業の計画を見直します。

今後どうなるか

以下は事実ではなく、確認できた連立上の制約を踏まえた編集部の見通しです。特定の陣営の勝敗は予測せず、確率も示しません。

A:ネタニヤフ首相を中心とする政権が続く 右派・宗教政党との連立が維持されれば、対イラン・対パレスチナ政策は従来の延長になりやすいとみられます。一方、徴兵、財政、入植地をめぐる連立内の違いは残り、入植地に関する欧州などの措置が続く可能性があります。

B:アイゼンコット氏らを中心とする新政権ができる 国家調査委員会、司法制度、無許可の入植拠点への対応は変わる可能性があります。ただし、パレスチナ国家やハマスの武装解除をめぐる基本線は大きく変わらないとみられます。アラブ系政党と組まない方針のもとで、幅広い政党をまとめる必要があります。

C:どの陣営も連立を組めない 組閣交渉が長引き、再選挙につながる可能性があります。暫定的な政権のもとでも安全保障上の判断は続きますが、予算や長期的な制度改革は進めにくくなります。

3つのシナリオに共通するのは、イラン、ガザ、レバノン、ヨルダン川西岸をめぐる安全保障上の課題が、選挙後も残ることです。変わり得るのは、政策を進める速さと、外交交渉の余地です。投票直後の議席数だけで中東の先行きを判断せず、連立合意と新政府の最初の政策表明を見ることをおすすめします。

シナリオの比較

確定した事実ではなく、執筆時点の情報にもとづいて想定したシナリオです。

シナリオ成立条件想定される影響企業の対応
A:ネタニヤフ首相を中心とする政権が続く与党陣営が小政党の議席や他党の協力で61議席を確保し、右派・宗教政党との連立を維持する。対イラン・対パレスチナ政策は従来の延長になりやすい。入植地をめぐる欧州などの措置が続き、徴兵や財政をめぐる連立内の調整も残る。入植地関連の制裁・輸入規制の動きを継続的に確認し、取引先の照合を定例化する。中東の輸送ルートの代替案を維持する。
B:アイゼンコット氏らを中心とする新政権ができる野党陣営がアラブ系政党と組まない方針のもとで、右派から中道左派までをまとめて61議席を確保する。国家調査委員会、司法制度、無許可の入植拠点への対応は変わる可能性がある。パレスチナ国家やハマスの武装解除をめぐる基本線は大きく変わらないとみられる。新政府の最初の政策表明と欧米との協議を見て、欧州との関係改善が取引条件に及ぶかを確認する。安全保障上のリスク前提は維持する。
C:どの陣営も連立を組めないいずれの陣営も61議席の連立を組めず、組閣交渉が長期化する、または再選挙になる。暫定的な政権のもとで安全保障上の判断は続くが、予算や長期の制度改革は進めにくい。政策の不確実性が長引く。中東事業の大きな判断は連立の行方が見えるまで段階的に進める。為替・原油の変動に備えた調達・価格の前提を複数持つ。

予測対象期間

2026年10月〜2028年12月

変化を見極める指標

  • 10月27日の開票結果と、3.25%に届いた政党の数
  • 大統領による組閣の指名と、連立交渉の進み方
  • 連立合意に書かれる徴兵、ヨルダン川西岸、対イランの方針
  • 米政権の新政府に対する声明と、米・イスラエル間の協議
  • 英国・フランス・カナダなどの入植地関連の輸入規制・制裁の施行状況
  • イスラエル銀行の声明と、海外からの投資・資金の動き

前提条件

  • 10月27日の選挙では、どの陣営も単独で大きく過半数を上回らず、連立交渉が政権の形を決める
  • 主要政党はアラブ系政党との連立を否定する方針を維持する
  • イランをめぐる緊張とガザの問題は選挙後も続き、米国は引き続き関与する
  • 英仏加などの入植地関連の措置は、選挙結果にかかわらず手続きが進む

不確実性(見通しが変わる条件)

世論調査は予測であり、調査主体によって与党陣営の議席は50から59まで差があります。小政党が3.25%に届くかどうかで議席配分は大きく変わり、出口調査や開票で見通しが一変する可能性があります。米政権の内部の考え方に関する部分は匿名の関係者の話に基づく報道で、正式な方針ではありません。イランやガザをめぐる軍事情勢の変化によって、ここで示したシナリオの前提そのものが変わることもあります。

経営会議で確認したい3つのこと

  1. 当社のイスラエル・中東関連の取引先や最終顧客について、英国などの入植地関連の制裁や輸入規制に照らした確認手順はあるか。
  2. 中東を通る原材料・製品の輸送について、ルート別の依存度と、緊張が高まった場合の代替ルート・追加費用を把握しているか。
  3. 選挙後の連立合意(入植地、徴兵、対イラン方針)のどの内容が出たら、中東事業の計画を見直すかを決めているか。

本記事は情報提供を目的としたもので、投資・法務・税務等の個別の助言ではありません。将来の見通しは執筆時点の情報と前提に基づく分析であり、結果を保証するものではありません。具体的な判断にあたっては、専門家にご相談ください。

用語の補足(8語)

クネセト
イスラエルの一院制の国会。定数は120で、任期は4年。全国を1つの選挙区とする比例代表制で選ばれる。
阻止条項(3.25%)
比例代表制で、一定の得票率に届かない政党名簿には議席を配分しない仕組み。イスラエルでは3.25%。小政党が届くかどうかで陣営の議席数が大きく変わる。
陣営(ブロック)
選挙後に連立を組むとみられる政党のまとまり。世論調査ではネタニヤフ首相を支える政党群と、野党の政党群に分けて集計されることが多い。
超正統派
ユダヤ教の戒律を特に厳格に守る人々。宗教学習に専念する若者の兵役免除が長く政治の争点になっている。
国家調査委員会
イスラエルの法律に基づく調査機関で、IDIによれば裁判官が委員長を務め、委員は最高裁長官が任命する。政府が任命する委員会より独立性が高いとされる。
ヨルダン川西岸の入植地
1967年以降イスラエルが占領するヨルダン川西岸に建設されたイスラエル人の居住地。多くの国は国際法違反とみなし、イスラエルは異を唱えている。
E1地区
エルサレム東側の地域で、入植地の建設計画がある。ロイターによれば、計画は西岸を分断し東エルサレムから切り離すものとされ、英仏加の共同声明でも懸念が示された。
イスラエル銀行
イスラエルの中央銀行。金融政策と銀行の監督を担う。
  • イスラエル
  • イラン
  • エネルギー
  • 中東
  • 制裁
  • 海上輸送
  • 米国
  • 総選挙
  • 連立政権

根拠資料・出典

一次資料

二次報道・参考

訂正履歴

訂正はありません。最終更新: 2026年10月26日 20:00

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