解説地政学と国際政治

鉄鋼の過剰生産で日米欧など「ミルウォーキー枠組み」を採択 迂回輸出の監視と「溶解・鋳造国」データ、日本企業への影響

世界の過剰生産能力は2028年に7億4500万トンへ 貿易救済措置の強化を各国に求める

鉄鋼の過剰生産能力を話し合う国際フォーラム(GFSEC)は2026年9月30日、米ミルウォーキーで閣僚会合を開き、各国が取る対策をまとめた「包括的枠組み」を採択しました。迂回輸出の監視や、鋼材がどこで溶かされ鋳造されたかを示すデータの収集、反ダンピング措置の活用などが柱です。鉄鋼を作る企業だけでなく使う企業にも関わる点を解説します。

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BSAC5編集部
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まず、これだけ押さえたい

  • GFSECは2026年9月30日、米ミルウォーキーの閣僚会合で、鉄鋼の過剰生産に対する「共同行動のための包括的枠組み」を採択した。
  • 世界の過剰生産能力は2024年の6億100万トンから2028年に7億4500万トンへ増える見通し。
  • 枠組みは補助金の抑制、「溶解・鋳造国」データの収集・公表、反ダンピング措置の活用、迂回輸出の監視を柱とする。
  • 日本は宮本経産副大臣が出席し、赤澤経産相は枠組みを踏まえて関係省庁で検討を進めると表明。
  • 鋼材を使う企業も、製鋼地の情報提供や原産地の証明を求められる場面が増える可能性がある。

経営への示唆編集部の分析

鉄鋼をめぐる通商政策は、関税の水準だけでなく「どこで溶かされた鋼か」という出所の管理へと重心が移りつつあります。鋼材を輸入・加工・輸出する企業は、調達先から製鋼地の情報を得られる体制を整えておくことで、各国の制度が変わったときの対応コストを抑えられます。各国の輸入制限の強化は地域ごとの価格差も生みやすく、調達先の分散と価格条件の見直しを合わせて検討することが望まれます。

この記事の目次
製鉄所の倉庫に積み上げられた鋼材コイルと、天井クレーンを写したイメージ

画像: AI生成のイメージ画像(Codexで作成)。実際の場面ではありません

何が採択されたのか

鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバル・フォーラム(GFSEC)は2026年9月30日、米ウィスコンシン州ミルウォーキーで閣僚会合を開きました。議長は米国で、日本、EU、韓国、英国、カナダ、ブラジルなど33の国・地域が参加し、新しい**「共同行動のための包括的枠組み」**で合意しました(閣僚声明(外部サイトが新しいタブで開きます))。米通商代表部(USTR)のグリア代表はこれを「ミルウォーキー枠組み」と呼んでいます(USTR(外部サイトが新しいタブで開きます))。

閣僚声明によると、世界の鉄鋼の過剰生産能力は2024年の6億100万トンから2028年には7億4500万トンに増える見通しで、過去10年で最も高い水準になります。中国の鉄鋼輸出は2025年に過去最高の1億3100万トンに達したとしています。

枠組みの主な中身

枠組みは、各国がそれぞれの国内法の範囲で取り組む行動を並べたものです(包括的枠組み(外部サイトが新しいタブで開きます))。

  • 補助金の抑制:赤字の製鉄所を延命させるような、市場をゆがめる補助金を控える。補助金の情報を共有する。
  • サプライチェーンの透明化:輸入者から**「溶解・鋳造国」(country of melt and pour)**、つまり鋼材の元になる粗鋼が最初に溶かされ鋳造された国のデータを集めて公表する仕組みを検討する。加盟国間で貿易データを交換し、不審な取引の流れを見つける。
  • 貿易救済措置の活用:アンチダンピング(不当廉売)関税や相殺関税、セーフガードの調査を、政府自らの判断での開始も含めて進める。
  • 迂回の防止:第三国を経由して関税を逃れる迂回輸出の情報を交換し、税関で協力する。他の加盟国の措置で行き場を失った鋼材の「裏口」にならないよう、貿易の振り替わりを監視する。

声明の付属資料は、2016年以降に加盟国が中国に課した68件の措置のうち28件で、中国から加盟国への輸出が減る一方、非加盟国への輸出が増え、そこから加盟国へ再輸出される流れが見られたと指摘しています。

日本政府の対応

赤澤経済産業大臣は10月2日の会見で、会合に宮本副大臣を派遣し、日本が鉄鋼製品へのアンチダンピング措置の活用を本格化させていることを共有したと説明しました。そのうえで、枠組みを踏まえて関係省庁で連携し検討を進める考えを示しています(経済産業省(外部サイトが新しいタブで開きます))。共同通信は、中国を念頭に日米欧が協調する動きだと伝えています(秋田魁新報/共同通信(外部サイトが新しいタブで開きます))。

企業にとっての意味

  • 鋼材を輸入・使用する企業:将来、輸入時に溶解・鋳造国の申告を求められる可能性があります。調達先から製鋼地の情報を得られるか、今のうちに確認しておくと対応が楽になります。
  • 鋼材や鉄鋼製品を輸出する企業:輸出先の国が反ダンピング調査や迂回防止の措置を強めると、原材料の出所の証明を求められる場面が増えます。
  • 価格:各国が輸入制限を強めると、行き場を失った鋼材が他の市場に流れ込み、地域ごとに価格差が広がる可能性があります。

枠組みの実施状況は次回の閣僚会合で報告される予定で、各国の具体的な制度づくりが今後の焦点です。

経営会議で確認したい3つのこと

  1. 当社が調達する鋼材について、粗鋼が溶解・鋳造された国の情報を調達先から得られるか。
  2. 輸出先で反ダンピング措置や迂回防止の調査が強化された場合、原材料の出所を証明できるか。
  3. 各国の輸入制限の強化で鋼材価格の地域差が広がった場合の調達方針を検討しているか。

用語の補足(9語)

GFSEC
Global Forum on Steel Excess Capacityの略。鉄鋼の過剰生産能力の問題を話し合うため、G20の合意を受けて設けられた国際的な協議の場。
過剰生産能力
需要に対して生産設備の能力が大きく上回っている状態。余った製品が安値で輸出され、他国の市場や価格に影響を及ぼしやすい。
迂回輸出
関税や輸入制限を避けるため、製品を第三国を経由させたり、第三国で簡単な加工をしたりして、原産国を変えて輸出すること。
粗鋼
鉄鉱石やスクラップを溶かして作られた、圧延などの加工を施す前の鋼。各国の鉄鋼生産量を比べる際の基本的な単位となる。
USTR
米通商代表部の略称。大統領直属の機関で、米国の通商政策の立案や他国との貿易交渉を担う。代表は閣僚級の扱いを受ける。
貿易救済措置
輸入の急増や不公正な貿易で国内産業が損害を受けた場合に、WTOのルールのもとで認められる輸入制限措置。反ダンピング、相殺関税、セーフガードがある。
アンチダンピング(不当廉売)関税
輸出国の国内価格より不当に安い価格で輸入された製品が国内産業に損害を与える場合に、その価格差を埋めるために上乗せする関税。
相殺関税
輸出国の政府から補助金を受けて安く輸出された製品に対し、補助金の効果を打ち消すために課す関税。
セーフガード
特定の製品の輸入が急増して国内産業に重大な損害が生じる場合に、一時的に関税の引き上げや輸入数量の制限を行う緊急措置。
  • アンチダンピング
  • サプライチェーン
  • 原産地
  • 迂回輸出
  • 通商政策
  • 過剰生産能力
  • 鉄鋼

根拠資料・出典

一次資料

二次報道・参考

訂正履歴

訂正はありません。最終更新: 2026年10月25日 18:00

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