分析5年先の未来予測

医療・介護は「需要が増え、担い手が減る」時代へ 厚生労働白書の2040年像から考える、2031年までに企業が備えること

厚生労働省は9月29日、令和8年版厚生労働白書を公表し、医療・介護・福祉の担い手不足を正面から取り上げました。介護関係職種の有効求人倍率は3.98倍に達し、介護事業所の約4割が赤字です。2040年に向けて85歳以上は約300万人増える一方、生産年齢人口は約1100万人減ります。社員の家族介護、地域の医療・介護へのアクセス、介護テックの商機という三つの面から、今後5年の影響を分析します。

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BSAC5編集部
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夕方の明るい介護施設の廊下で、見守り用のタブレット端末を手にした職員の手元と、ぼかした後ろ姿を写したイメージ写真

画像: AI生成のイメージ画像(Codexで作成)。実際の場面ではありません

3分で分かる要点

  • 令和8年版厚生労働白書(9月29日公表)は、医療・介護・福祉の担い手不足と2040年に向けた課題を正面から扱いました。
  • 2025年度の介護関係職種の有効求人倍率は3.98倍で全職業(1.10倍)の3倍超、介護事業所の37.5%が2024年度に赤字でした。
  • 2025〜2040年に85歳以上は約300万人増え、生産年齢人口は約1100万人減ります。80歳以上は2030年に約1544万人と推計されています。
  • 企業にとっては、社員の家族介護、地域の人材競争、介護テックの商機という三つの面で影響が出ます。

経営への示唆

医療・介護の担い手不足は、業界の外の企業にとっても「社員が働き続けられるか」という問題として表れます。今後5年は80歳以上人口が大きく増える時期で、中核社員の親の介護が重なりやすくなります。両立支援の制度を整えるだけでなく、実際に使える職場の運用になっているかを点検することが重要です。医療・介護向けに製品やサービスを持つ企業には、業務の再設計まで支える提案力が問われます。

何が起きたか

厚生労働省は2026年9月29日、令和8年版厚生労働白書を公表しました。第1部のテーマは「これからの医療・介護・福祉の現場で働くことを考える」で、2040年を見据えた担い手確保と、ICT・AI・ロボットなどのテクノロジーによる生産性向上を扱っています。

白書によると、医療は約18万施設で医師約33万人・看護職員約175万人が、介護は約213万人(2024年度)が、障害福祉は約132万人の職員が支えています。介護を含む医療・福祉の就業者が全就業者に占める割合は、2005年の8.7%から2025年には13.9%に上がりました。

人手不足は他の産業より深刻です。2025年度の有効求人倍率(求職者1人に対する求人の数)は、全職業の1.10倍に対し、看護関係職種で2.10倍、介護関係職種で3.98倍、障害福祉関係職種で3.28倍でした。経営面では、2024年度に病院の58.0%(経常利益ベース)、介護サービス施設・事業所の37.5%、障害福祉サービス等事業所の43.6%が赤字でした。白書は、これらの分野が公定価格(診療報酬・介護報酬など国が決める価格)で運営されるため、賃金上昇や物価高を価格に転嫁しにくい構造にあると説明しています。

また、厚生労働省の調査では、医療・介護・福祉の将来の担い手不足に不安を感じる人が7割を超えました。

なぜ起きたか

背景にあるのは人口構造の変化です。白書は国立社会保障・人口問題研究所の推計をもとに、2025年から2040年にかけて85歳以上人口が約300万人増え、15〜64歳の生産年齢人口は約1100万人減ると示しています。医療・介護を複合的に必要とする高齢者が増える一方、支え手は減り、他の産業との人材の取り合いが激しくなります。

2031年はその途中にあたります。総務省統計局が9月20日に公表した統計トピックスでは、80歳以上人口は2026年9月時点で1288万人ですが、同研究所の推計では2030年に1544万人になる見込みです。75歳以上人口も2026年の2168万人から2030年には2261万人に増えます。つまり今後5年で、介護が必要になりやすい年齢層が大きく膨らみます。

需要の中身も変わります。白書は、急性期医療の需要が減る一方で、在宅医療・高齢者救急・認知症への対応が増えると指摘しています。都市部では高齢者が増え、地方では高齢者も含めて人口が減るため、地域によってサービスの不足の現れ方が異なります。政府が2018年に行った推計では、2040年に医療・福祉分野で必要な就業者は約1070万人(全就業者の18〜20%)とされ、白書は生産性の向上でより少ない人数で対応できる可能性にも触れています。

何が変わるか

医療・介護の供給制約は、医療・介護業界の外にいる企業にも三つの経路で影響します。

第一は社員の家族介護です。80歳以上人口が増える今後5年は、40〜50代の管理職・中核社員の親が介護を必要とする時期と重なります。介護サービスの人手が足りなければ、家族が担う部分が増え、休業や時短、離職につながりやすくなります。これは数値で確認した事実ではなく、人口推計と供給制約の組み合わせから考えられる影響です。

第二は地域の労働市場です。医療・福祉はすでに就業者の約7人に1人を占める大きな雇用の受け皿で、介護の有効求人倍率は全職業の3倍を超えます。地方では、医療・介護と製造・小売・物流などが同じ働き手を取り合う構図が強まります。

第三は市場機会です。白書は、見守りセンサー、音声入力による記録、AI問診、移乗支援機器などの導入事例を紹介しています。ある社会福祉法人では、職員1人当たりの利用者数が約2.8人(全国平均は約2.0人)と生産性を高め、職員の月額給与も全国平均を上回っています。一方で白書は、導入費用の負担や、導入後に定着させる人材・体制が課題だとしています。医療・介護向けの機器、ソフトウェア、業務代行などを提供する企業にとっては、「導入して終わり」ではなく、業務の再設計まで支える提案が求められます。

どう行動すべきか

経営者・管理職が今から取り組める対応は次のとおりです。

  1. 仕事と介護の両立を人事課題として扱う:社員の年齢構成から、今後5年で親の介護に直面しうる社員の数を推計し、介護休業・短時間勤務・在宅勤務の使いやすさを点検します。相談窓口や、地域の介護サービスについての情報提供も有効です。
  2. 地域の人材競争を前提に採用計画を立てる:医療・介護と同じ働き手を取り合う職種(事務、軽作業、運転など)では、賃金だけでなく勤務時間の柔軟さが重視されます。自社の求人条件を地域の相場と比べておく必要があります。
  3. 医療・介護向け事業は「業務改革の伴走」で差をつける:白書は、テクノロジーは現場の業務改革と一体になって初めて効果を出すとまとめています。機器やシステムを売るだけでなく、導入目的の整理、職員の研修、定着の支援まで含めた提供体制が重要です。
  4. 健康経営を長期の人材戦略に組み込む:医療へのアクセスが地域によって細る可能性を考えると、社員の健康づくりと重症化の予防は福利厚生ではなく、人材の確保・定着の手段になります。

今後どうなるか

以下は事実ではなく、白書と人口推計を前提にした見通しです。確率は示しません。

基本シナリオ(不足の常態化と地域差の拡大):2031年にかけて介護関係職種の有効求人倍率は高止まりし、地方を中心に訪問介護などの事業所の撤退や縮小が続きます。テクノロジーの導入は記録・見守り・情報共有から広がりますが、身体介助などは限定的にとどまります。企業では、仕事と介護の両立支援が人事制度の標準的な項目になります。

上振れシナリオ(生産性向上の好循環):報酬制度や補助金による後押しで、業務の再設計を伴うテクノロジー導入が中小の事業所にも広がり、職員1人当たりで支えられる利用者が増えます。浮いた収益が賃上げに回り、人材の定着が進むという、白書が描く好循環が各地で生まれます。

下振れシナリオ(サービスの空白地帯の出現):賃金上昇と物価高に公定価格の改定が追いつかず、赤字の事業所の退出が加速します。地域によっては必要な介護サービスを受けられない状態が広がり、家族介護の負担が増えて、働き盛りの社員の休業や離職が目立つようになります。

予測対象期間

2026年11月〜2031年10月

変化を見極める指標

  • 介護関係職種・看護関係職種の有効求人倍率(厚生労働省・職業安定業務統計)
  • 介護事業所・病院の赤字割合(介護事業経営概況調査、医療経済実態調査)
  • 75歳以上・80歳以上人口(総務省・人口推計)
  • 介護を理由とする離職者数(総務省・就業構造基本調査、厚生労働省・雇用動向調査)
  • 介護テクノロジーの導入状況と報酬改定の内容(厚生労働省の公表資料)

前提条件

  • 高齢化は国立社会保障・人口問題研究所の推計(令和5年推計、出生中位・死亡中位)に沿って進む。
  • 医療・介護・障害福祉は引き続き公定価格(報酬制度)と人員配置基準のもとで運営される。
  • 賃金上昇と物価高の流れが続き、医療・介護の事業者の経営を圧迫する。
  • 外国人介護人材の受け入れやテクノロジー導入の支援策に、急な方針転換はない。

不確実性(見通しが変わる条件)

人口の推計は比較的確度が高い一方、介護の担い手の数は賃金水準、外国人材の受け入れ、テクノロジーの普及速度で大きく変わります。報酬改定や補助金の規模といった政策判断によっても、事業所の経営と人材確保の見通しは大きく左右されます。社員の介護離職への影響は、本稿では人口推計と供給制約から推論したもので、白書が示した数値ではありません。

明日の経営会議で問うべき3つのこと

  1. 今後5年で親の介護に直面しうる社員は何人いて、介護休業や短時間勤務を実際に使える職場になっているか。
  2. 地域で医療・介護と同じ働き手を取り合う職種について、勤務条件が見劣りしていないか確認しているか。
  3. 医療・介護向けの製品やサービスで、導入後の定着や業務改善まで支援できる体制があるか。

本記事は情報提供を目的としたもので、投資・法務・税務等の個別の助言ではありません。将来の見通しは執筆時点の情報と前提に基づく分析であり、結果を保証するものではありません。具体的な判断にあたっては、専門家にご相談ください。

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  • 高齢化

根拠資料・出典

一次資料

訂正履歴

訂正はありません。最終更新: 2026年10月19日 15:00

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