IEAが描く「電化の時代」 2035年に電気の比率35%のシナリオ、日本企業にとってのコストと商機
IEAは9月22日、電化に関する特別報告を公表しました。世界の最終エネルギー消費に占める電気の比率は23%ですが、今の技術で費用面から見合う電化を進めるだけで33%、加速すれば2035年に35%に達するとしています。産業の低・中温の熱の約4割は費用面で電化できるとも分析しました。日本企業にとっての設備投資の判断と、送電設備などの商機を5段階で分析します。

画像: AI生成のイメージ画像(Codexで作成)。実際の場面ではありません
3分で分かる要点
- IEAは9月22日の特別報告で、世界の電化率(現在23%)が費用面で見合う範囲だけで33%、加速すれば2035年に35%に達すると試算しました。
- 産業の低・中温の熱を使う工程の約40%は費用面で電化でき、食品加工や繊維、紙・パルプなどに余地が大きいとしています。
- 日本・韓国はすでに電化率が約3分の1と高く、日本の電力需要はデータセンターや半導体、電化で再び増える見込みです。
- 電化関連の売上増の約半分は欧州・日本・韓国・北米の企業が得ており、電力機器を持つ日本企業には商機があります。
経営への示唆
電化は、燃料価格の変動から身を守る手段であると同時に、電力の確保と電気料金という新しいリスクを抱えることでもあります。燃料を使う工程を持つ企業は、温度帯ごとに電化の候補を洗い出し、必要な電力量と受電・接続の期間を投資計画に組み込む必要があります。燃料価格が高い今は判断を前倒しする材料になりますが、価格が落ち着いた場合も含めて回収を試算することが重要です。電力機器や制御技術を持つ企業にとっては、国内外の需要拡大を見込んだ供給体制づくりが課題になります。
何が起きたか
国際エネルギー機関(IEA)は2026年9月22日、電化(化石燃料で動かしていた機器や工程を電気に置き換えること)に関する特別報告「Electrification」を公表しました。COP31の議長国トルコと交渉議長国オーストラリアの要請でまとめたものです。
報告によると、世界の電力需要は2015〜2025年に年平均3%超で増え、エネルギー需要全体のおよそ2倍の速さでした。冷房、データセンター、先端製造業、電気自動車(EV)が増加を引っ張り、EVは2025年に新車販売の25%近くを占めました。現在、最終エネルギー消費に占める電気の比率(電化率)は世界で23%です。
報告は、今の技術で費用面から見合う電化をすべて進めると電化率は33%に、より速く電化を進めるシナリオでは2035年に35%に達すると試算しました。このシナリオでは、燃料の輸入国は2025年に比べて輸入額を年4000億ドル規模で減らせ、運輸・建物・産業の排出は2035年までに40%減ります。産業では、低温・中温の熱を使う工程のエネルギー消費の約40%が費用面で電化でき、繊維、食品加工、紙・パルプ、一部の化学が近いうちに電化の余地が大きい分野とされています。
IEAは発表で、2026年のホルムズ海峡の危機を「5年で2度目の大きなエネルギーショック」と位置づけ、輸入燃料への依存を減らす手段として電化への関心が高まっていると説明しています。
なぜ起きたか
日本は電化の「先行国」です。報告によると、日本と韓国では電気が最終エネルギー消費の約3分の1を占めます。両国とも化石燃料の輸入依存度が高く、燃料価格が比較的高いことと、輸出型の製造業が大きいことが背景にあるとしています。機械産業では、日本・韓国の電化率は欧州より約16ポイント高いと分析しています。
建物分野でも日本の特徴が取り上げられました。日本では給湯が建物のエネルギー需要の20%近くを占め、先進国平均(10%強)より高い水準です。CO2を冷媒に使うヒートポンプ給湯機が約1000万台販売され、国内で売れる電気給湯機のほぼすべてを占めるようになりました。2026年4〜6月期のヒートポンプの販売は16%増えています。
一方、IEAが10月9日に公表した日本のエネルギー政策の審査報告では、10年減り続けた日本の電力需要がデータセンターや半導体、電化で再び増えると見込まれています。電化を進めるには、それを支える電源と送電網が欠かせません。IEAは9月21日に公表した送電網の報告で、新しい送電設備の建設は時間もコストも増しており、既存設備をより効率よく使うことも同じくらい重要だとしています。
何が変わるか
日本企業への影響は、コストとビジネスの両面に表れます。
エネルギーコストと調達:燃料をたく工程を電気に置き換えると、燃料価格の変動の影響は減る一方、電気料金と電力の確保が経営に直結します。特に工場の熱の工程を電化する場合、契約電力が増え、送電網への接続や受電設備の増強が必要になることがあります。日本の電力需要が増加に転じるなかでは、電力の確保そのものが立地や投資の時期を左右し得ます。
設備投資の判断:報告は、電化技術は導入時の費用が大きい一方で、運転費用が低いことを強調しています。ヒートポンプなどへの更新は、燃料価格が高い局面ほど回収しやすくなります。2026年の燃料価格の高騰は、電化を検討する企業にとって投資判断を前倒しする材料になり得ます。
事業機会:報告によると、2020年以降の世界の製造業の売上増加の5分の1は電化関連の分野によるもので、その約半分は欧州・日本・韓国・北米に本社を置く企業が得ています。送電関連の設備では、欧州企業が2025年に1600億ドル超を売り上げ、日本・韓国・北米の企業がさらに800億ドルを売り上げました。電力機器、ヒートポンプ、制御・蓄電技術を持つ日本企業には、国内外で需要が広がる可能性があります。一方で報告は、重要鉱物の供給の集中を大きなリスクに挙げています。
どう行動すべきか
経営者・管理職が検討すべき対応は次のとおりです。
- 熱の使い方を棚卸しする:工場や施設で燃料を使っている工程を温度帯ごとに洗い出し、低温・中温の工程からヒートポンプなどで電化できる候補を探します。報告が電化の余地が大きいとした食品加工、繊維、紙・パルプ、化学の企業は特に優先度が高い分野です。
- 電力の確保を投資計画の前提に置く:電化で必要になる電力量を見積もり、電力会社と受電容量や接続にかかる期間を早めに確認します。自家発電や蓄電池、需要の調整(ピーク時の使用を減らす運用)を組み合わせると、契約電力の増加を抑えられます。
- 燃料価格と電気料金の両方で回収を試算する:燃料が高い局面だけで判断せず、価格が落ち着いた場合も含めて投資の回収を試算します。公的な支援制度の活用も検討します。
- 電化関連の需要を事業機会として捉える:電力機器や部品、制御技術、施工・保守のサービスを持つ企業は、国内外の需要拡大を見込んだ生産能力や人材の確保を検討します。重要鉱物など調達先の偏りへの備えも同時に必要です。
今後どうなるか
以下は事実ではなく、IEAの分析を前提にした見通しです。確率は示しません。
基本シナリオ(燃料高を追い風に、熱と移動の電化が着実に進む):2031年にかけて、日本でも工場の低温の熱、業務用の給湯・空調、社用車や配送車で電化が進みます。ただし送電網の増強や受電設備の工事に時間がかかり、電化のペースは地域や企業規模で差が出ます。電力機器や送電設備の需要は国内外で堅調に推移します。
上振れシナリオ(電化が国際的な目標に):電化率35%の目標が国際的に共有され、各国で支援策が強まります。日本でも送電網の増強と接続手続きの迅速化が進み、中小の工場でもヒートポンプなどの導入が広がります。電化関連の機器や技術を持つ日本企業の輸出が伸びます。
下振れシナリオ(電力の制約と価格で足踏み):電力需要の増加に電源と送電網の整備が追いつかず、電気料金の上昇や接続の待ち時間が電化の妨げになります。燃料価格が落ち着くと電化の費用面の利点が薄れ、投資が先送りされます。重要鉱物の供給制約で、蓄電池や機器の価格も高止まりします。
予測対象期間
2026年11月〜2031年10月
変化を見極める指標
- 世界と日本の電化率(IEAの統計・報告)
- ヒートポンプとEVの国内販売動向
- 企業向け電気料金と、LNG・原油の輸入価格
- 大規模需要の送電網接続の申請・待ちの状況(電力広域的運営推進機関)
- 電力機器・送電設備関連の受注動向
前提条件
- 電化技術(ヒートポンプ、EV、蓄電池など)のコスト低下が続く。
- 燃料価格は2026年の高騰からある程度落ち着くものの、変動の大きい状態が続く。
- 日本の電力需要は増加に転じ、送電網の増強と電源の整備が段階的に進む。
- 重要鉱物の供給に、長期にわたる深刻な途絶は起きない。
不確実性(見通しが変わる条件)
電化のペースは、燃料と電気の価格差、機器の価格、支援策、送電網の整備速度に左右されます。IEAの35%は、世界全体のネットゼロへの道筋から導いたシナリオの値で、各国の実績の予測ではありません。日本は電化率がすでに高く、世界平均と同じ伸び方をするとは限りません。中東情勢による燃料価格の動きも予測が難しい要素です。
明日の経営会議で問うべき3つのこと
- 当社の工場・施設で燃料を使う工程のうち、ヒートポンプなどで電化できる低温・中温の工程はどれか。
- 電化を進めた場合に必要な電力量と、受電設備や送電網への接続にかかる期間を把握しているか。
- 燃料価格が下がった場合でも、電化投資は回収できる計画になっているか。
本記事は情報提供を目的としたもので、投資・法務・税務等の個別の助言ではありません。将来の見通しは執筆時点の情報と前提に基づく分析であり、結果を保証するものではありません。具体的な判断にあたっては、専門家にご相談ください。
根拠資料・出典
一次資料
訂正履歴
訂正はありません。最終更新: 2026年10月18日 22:30
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