原油供給は戻りつつも「脆弱」 IEA10月報告とOPECプラスの増産停止から考える2027年までの3シナリオ
湾岸の輸出は戦前の75%超まで回復、それでも軽油不足と海峡周辺の攻撃が続き、北海原油の先物は10月16日に1バレル110ドルに迫る
IEAは2026年10月の石油市場報告で、9月の湾岸の原油輸出が戦前の75%超まで戻った一方、回復は脆弱だと指摘し、軽油の需給は2027年に入っても逼迫が続くとしました。サウジの東西パイプラインは部分的に再開しましたが、ホルムズ海峡周辺では船舶への攻撃が増え、北海ブレント先物は10月16日に109.86ドルで引けました。日本は備蓄放出と代替調達で店頭価格を抑えています。2027年までの3つのシナリオを整理します。

画像: AI生成のイメージ画像(Codexで作成)。実際の場面ではありません
3分で分かる要点
- IEAの10月報告によると、9月の湾岸の原油輸出は戦前の75%超まで回復したが、IEAは回復を「脆弱」と評価。
- 軽油は中東・ロシアからの輸出が日量130万バレル減り、IEAは需給の逼迫が2027年に入っても続くとみる。
- 北海ブレント先物は10月16日に109.86ドルで引け、5月以来の高値。現物の指標価格は執筆時点で約134ドルと、先物を大きく上回る。
- サウジの東西パイプラインは部分的に再開したが、ホルムズ海峡周辺ではタンカーへの攻撃が増え、米イランの再開交渉は停滞。
- 日本は備蓄放出と代替調達で店頭価格を抑えており、店頭価格だけでは危機の大きさを見誤りやすい。
経営への示唆
原油市場は供給が戻りつつある一方で、施設や船舶への攻撃一つで状況が変わる状態にあり、原油よりも軽油の不足が長引くおそれがあります。中東依存の高い日本企業は、国内の店頭価格の落ち着きに安心せず、複数のシナリオごとに燃料・原料コストと調達の手当てを決めておくことが求められます。特に軽油やナフサに依存する物流・化学・素材・建設・農業関連の企業は、価格転嫁の手順、代替調達、在庫水準を事前に取引先とすり合わせておくことが、急変時の操業継続につながります。
IEA:供給は回復途上、ただし脆弱
国際エネルギー機関(IEA)が2026年10月14日に公表した石油市場報告によると、9月の世界の石油供給は前月から日量250万バレル増えて1億230万バレルになりました。湾岸産油国の原油輸出は日量1390万バレルと戦前の75%超まで戻り、ホルムズ海峡を通る石油の流れも日量1090万バレルに増えています。一方でIEAは「湾岸での攻撃の再発で回復は脆弱だ」としています(IEA(外部サイトが新しいタブで開きます))。
需要面では、2026年の世界の石油需要が前年比で日量260万バレル減ると予測し、減少分の4分の1は軽油(ディーゼル)です。2027年は日量200万バレル戻るものの、2025年の水準を0.6%下回る見通しです。世界の在庫は2月末から5億900万バレル減りました。
価格:現物と先物の差が開く
原油価格には、現物の取引の指標(デーテッド・ブレント)と、取引所で売買される先物の2種類があります。IEAによると、デーテッド・ブレントは9月に前月比26.17ドル上がって1バレル116.89ドルとなり、報告の執筆時点では約134ドル、同じ時点の先物は約107ドルでした。値上がりの要因として、中東での戦闘の再燃、9月のサウジアラビアの東西パイプラインへの攻撃、運賃の急騰を挙げています。
先物はその後も上昇し、北海ブレント先物は10月16日に一時110ドルに達し、前日比3.7%高の109.86ドルで取引を終えました。5月19日以来の高値です。サウジのヤンブー港付近でのミサイルの迎撃、ホルムズ海峡でのイランによる攻撃の激化、ロシアの製油所への無人機攻撃による軽油供給への懸念が材料とされました(Nation Thailand(外部サイトが新しいタブで開きます))。
東西パイプラインは部分再開、輸出能力の増強も
サウジアラビアの東西パイプラインは、ペルシャ湾岸から紅海側のヤンブーへ原油を運び、ホルムズ海峡を迂回する主要な経路です。米海事専門紙マリタイム・エグゼクティブによると、このパイプラインは9月11日のドローン攻撃で大きく損傷し、9月22日時点で部分的に再開しました。11か所あるポンプ場のうち3か所が損傷し、残る8か所で流量を落として送油している状態で、当面は日量約400万バレルを目標とし、全面復旧には最大6週間かかる可能性があるとしています。設計上の輸送能力は日量700万バレルです(The Maritime Executive(外部サイトが新しいタブで開きます))。
サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は10月12日、国内のガスパイプラインを一時的に原油輸送に転用して7〜8週間で日量最大120万バレルの輸出能力を加え、2〜3年かけて海峡を迂回する輸出能力を日量約1000万バレルに高める構想を示しました。転用したパイプラインを原油に使えるのは来年5月までとしています(Zawya/ロイター(外部サイトが新しいタブで開きます))。
ホルムズ海峡:輸出の回復と攻撃の増加が同時に進む
ロイター通信によると、9月28日〜10月5日の1週間に、ホルムズ海峡周辺で石油・LNG・LPGのタンカーへの攻撃が少なくとも12件あり、2月28日の開戦以降で最多となりました(国際海事機関の集計では9件)。同じ記事は、湾岸産油国の輸出が9月の半分ほどの期間で戦前の水準を上回ったと伝えています(The Star/ロイター(外部サイトが新しいタブで開きます))。
海峡の再開をめぐっては、イランのアラグチ外相が10月18日、米国が条件を受け入れれば6日以内に海峡を再開できるとする提案は「まだ有効だ」と述べました。イランは港湾封鎖の解除、石油輸出への制裁の解除、地域全体での戦闘の停止などを条件としていますが、米国は核開発の問題を最初に扱うよう求めており、交渉は停滞しています(Asharq Al-Awsat(外部サイトが新しいタブで開きます))。
原油以上に注意が必要な軽油
IEAによると、9月の中東とロシアからの軽油の純輸出は前月から日量130万バレル減って82万バレルとなり、前年より6割以上少なくなりました。IEAは、軽油の需給は中東の石油製品の供給回復次第で「2027年に入っても逼迫が続く」とし、失った在庫の積み増しは2027年後半より前には難しいとみています(IEA(外部サイトが新しいタブで開きます))。
IEAは10月15日、3月に決めた加盟国の協調備蓄放出のうち残る約1億バレルの放出を早め、その中に2000万バレル超の軽油を含めると発表しました。放出の総量は当初の4億バレルを上回る見通しです(Kitco/ロイター(外部サイトが新しいタブで開きます))。
OPECプラスは2カ月連続で据え置き
サウジアラビア、ロシア、イラク、クウェート、カザフスタン、アルジェリア、オマーンの7カ国は10月4日のオンライン会合で、11月の生産水準を9月と同じに据え置くことを決めました。次回会合は11月1日です(OPEC(外部サイトが新しいタブで開きます))。
日本:備蓄と代替調達が価格の上昇を吸収
日本政府は3月から国家備蓄原油を放出しており、4月24日には第2弾として約20日分・約580万キロリットルを5月1日以降に放出すると発表しました。ホルムズ海峡を通らない経路での調達を進め、5月には前年実績の過半を代替調達できる見込みとしていました(経済産業省(外部サイトが新しいタブで開きます))。5月15日には、5月は約6割、6月は7割以上の代替調達の見込みが立ったとして、第3弾の放出は決定しませんでした(経済産業省(外部サイトが新しいタブで開きます))。
資源エネルギー庁の石油製品価格調査をもとにした集計によると、10月13日時点の全国平均の店頭価格は、レギュラーガソリンが1リットル170.1円、軽油が159.6円、灯油(配達・18リットル)が2749円でした(エネカルテ(外部サイトが新しいタブで開きます))。国際価格が100ドルを超えて上下する中でも国内の店頭価格は落ち着いており、店頭価格だけを見ると、危機の大きさを小さく見積もりやすい点に注意が必要です。
日本企業にとっての意味
ロイター通信によると、日本の2025年の原油輸入の94%は中東産で、そのうち93%がホルムズ海峡を経由していました(The Star/ロイター(外部サイトが新しいタブで開きます))。ホルムズ海峡と迂回ルートの状況は、日本企業の燃料・原料コストに直結します。影響は原油価格だけでなく、軽油の供給量、タンカーの運賃や保険料を通じて、物流・農業・建設・製造の費用に広がります。
今後どうなるか
以下は確定した事実ではなく、想定されるシナリオです。確率は示しません。
- シナリオA:段階的な正常化 米国とイランが海峡の再開で合意し、湾岸の輸出とホルムズ海峡の通航が戦前の水準に近づく。東西パイプラインも全面的に復旧し、IEAの見通しのように2027年に供給が大きく増える。原油価格と運賃は高値から下がり、日本が追加の備蓄放出なしで冬を越せる見通しが立つ。企業のコスト負担は和らぐが、在庫の積み増しや調達の分散にかかる費用は残り、軽油の需給は2027年に入っても締まりやすい。
- シナリオB:不安定な高止まり 通航は続くものの、海峡周辺での船舶への攻撃やエネルギー施設への攻撃が散発的に繰り返され、原油価格は1バレル100ドル台で上下し、運賃・保険料も高い水準が続く。軽油の不足が物流費を押し上げ、国内では燃料価格の上昇が遅れて表れる。OPECプラスは様子見を続ける。企業は数カ月単位での価格改定や燃料サーチャージの見直しを迫られる。
- シナリオC:再度の大規模な途絶 東西パイプラインやヤンブー港が再び長く止まる、あるいはホルムズ海峡の実際の輸送量が再び急減する。原油価格は120ドルを超える水準が定着し、在庫の取り崩しが進む。軽油やナフサなど特定の製品の不足が先に表れ、物流・化学・製造業の操業に影響が出る。日本政府の追加の国家備蓄放出や、各国の需要抑制策が焦点になる。
どのシナリオでも、原油価格だけでなく、軽油・ナフサの供給量、海上運賃、保険の手配可能性、国内の店頭価格を合わせて監視することが重要です。
予測対象期間
2026年11月〜2027年12月
変化を見極める指標
- 北海ブレントの先物と現物(デーテッド・ブレント)の価格(90ドル台への低下か、120ドル超の定着か)
- ホルムズ海峡の通航量と周辺での船舶への攻撃件数、米国とイランの再開交渉の行方
- サウジの東西パイプラインとヤンブー港の稼働状況
- 軽油の在庫・輸出量とIEAの協調備蓄放出の進み具合
- タンカー運賃と海上保険料の推移
- 日本政府の国家備蓄放出に関する発表と、国内の軽油・灯油の店頭価格
前提条件
- 米国とイランの間で、ホルムズ海峡の通航を全面的に止める状態には直ちに戻らない。
- サウジの東西パイプラインは2026年内に全面的な稼働に戻ることを目指して復旧が進む。
- OPECプラスは月次の会合で生産水準を見直す運営を続ける。
- IEAが見込む2027年の供給増は、湾岸の生産設備と輸送経路の復旧を前提としている。
不確実性(見通しが変わる条件)
中東での戦闘や施設・船舶への攻撃の行方は予測が難しく、一度の事件で供給と価格の前提が大きく変わります。米国とイランの交渉は条件の順番をめぐって対立しており、合意の時期は見通せません。IEAの数値は推計で、今後の報告で改定される可能性があります。本稿は投資や為替の判断を勧めるものではありません。
明日の経営会議で問うべき3つのこと
- 原油価格が1バレル90ドル台に下がる場合と120ドルを超えて定着する場合で、当社の利益への影響を試算しているか。
- 軽油やナフサなど特定の石油製品が不足した場合、操業や物流をどれだけ維持できるか。
- 燃料サーチャージや価格改定の条項は、数カ月単位の価格変動に対応できる内容になっているか。
本記事は情報提供を目的としたもので、投資・法務・税務等の個別の助言ではありません。将来の見通しは執筆時点の情報と前提に基づく分析であり、結果を保証するものではありません。具体的な判断にあたっては、専門家にご相談ください。
根拠資料・出典
一次資料
- 一次資料Oil Market Report - October 2026
- 一次資料Saudi Arabia, Russia, Iraq, Kuwait, Kazakhstan, Algeria, and Oman reaffirm commitment to market stability
- 一次資料第2弾の国家備蓄原油の放出を行います
- 一次資料民間備蓄義務量の引き下げの維持について(2026年5月15日)
二次報道・参考
- 二次報道Japan approves three bills to ease oil import costs
- 二次報道Brent hits US$110 a barrel on October 16 over supply fears
- 二次報道Report: Saudi Aramco Achieves Partial Restart on Strategic Red Sea Pipeline
- 二次報道Saudi Arabia eyes raising its pipeline oil export capacity to 10mln bpd, energy minister says
- 二次報道Attacks on tankers in Hormuz hit highest of any week since start of Iran war, sources say
- 二次報道Iran Urges US to Accept Proposal to Reopen Strait of Hormuz
- 二次報道IEA says total oil stock release will exceed 400 million barrels
- 二次報道ガソリン価格の最新と推移
訂正履歴
訂正はありません。最終更新: 2026年10月18日 22:40
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